不動産鑑定士の自由研究

不動産鑑定士という職業の認知度アップに貢献したい

相談案件 立退料の算定

建物の賃借人の方からのご相談でした。

家主から立退きを求められているが、提示された立退料に納得がいかないので、立退料を鑑定評価してほしい、と。

 

ところが、不動産鑑定士が鑑定評価を行う際のルールブックである不動産鑑定評価基準には、立退料の求め方は出てこないんです。

で、不動産鑑定評価基準にあるのは「借家権」の価格の求め方。

 

不動産鑑定士の中にも、この借家権価格と立退料を混同してる人がいるくらい、あいまいな分野です。

 

まず、借家権という権利に、価格すなわち経済価値があるのか、という問題があります。

(個人的見解として、借家権に経済価値があるケースは稀だと思います。)

 

不動産鑑定評価基準は国土交通省のホームページで公開されているので、ご興味のある方は、ちらっと読んでみてください。

 

このあたりの観念的なお話につきましては、長くなりますので省略します。

 

肝心なのは、クライアントが求めている立退料は、鑑定評価で求める借家権とは全然違う、という点です。

 

みなさんは、立退きを求められたとすると、いくらの立退料をもらえたら、立退きに合意しますか。

 

だけど、こういう観点から借家権を求めるように、不動産鑑定評価基準はできていません。

立退料に近い概念となるのが、公共事業などで移転(要するに立退きです)を求められた場合に適用される損失補償基準なるものです。

損失補償基準は、公共事業にかかわったことがないと、なじみが薄いですよね。不動産鑑定士でも、補償業務をやったことがないと、知らないことがあると思います。

 

さて、ご相談に対して、損失補償基準を準用して立退料を算定する「意見書」なら書けますよ、という回答をしたものの、算定には手間もかかるし、費用もかさみます。

そこで、費用をおさえたいなら、立退料の一般的な概念を整理した意見書を書きますので、お客様のほうで立退料を算定してみませんか、というご提案をさせていただき、エクセルで算定フォームを作って、意見書といっしょに納品させていただきました。

その後、何度かご質問のお電話をいただきましたが、無事にご自分で立退料を算定して家主と交渉できたとご連絡をいただいた次第です。

必ずしも不動産鑑定評価書という形ではないかも知れませんが、不動産に関するお困りごとを解決できるよう努めておりますので、お気軽にご相談いただけたら嬉しいです。