こちら福岡では、九州・沖縄不動産鑑定士協会連合会(九鑑連)主催の研修会でした。
これは不動産鑑定士向けの研修会で、二日間ぶっ続けの、なかなかハードな会なのですが、不動産鑑定士は継続研修と申しまして、年間15単位の研修を受けなければなりません。
このあたりは公認会計士さんと同じシステムになっています。
そして、この二日間で、まとめて12単位が取得できますので、たいへん重宝しております。
ところで、私は業界内ではまだまだ若手ですので、研修会では受付などのお手伝いをするのですが、この福岡に、島根、岡山、遠いところでは山形からご参加の先生もおられました。
やはり、集中的に単位が取得できるこの研修会は、貴重な機会とのことでした。
AFPも単位を取らないと継続できないのですが、私、本年度まだ0単位で、FP協会からよくメールが届いています。
やはりAFPまでは手が回らないなあ、と実感しております。
評価事例 退職金を不動産で支給する場合
不動産鑑定評価の本質は、不動産の経済価値を「誰かに示すため」であると書いたことがありますが、退職金を不動産で現物支給する場合など、不動産鑑定評価の出番となります。
現金で2千万円の退職金を支給するなら、誰が見たって2千万円の退職金です。
でも、これを不動産で支給するとしたら、その不動産が2千万円ではなく、実は1500万円かも知れないし、2500万円かも知れない、と、これは会社と退職者の間でも揉める原因になるでしょうけれども、当事者間であれば、双方合意すれば、本当の経済価値がいくらか、という問題にならず、2千万円の不動産を退職金として支給した⇔支給された、として済む話です。
しかし、当事者が納得しているにもかかわらず、納得してくれない人がいます。
それが税務署。
ですから、退職金を不動産で現物支給する場合には不動産鑑定評価が必要になります。
ご依頼をいただいたのは、社長さんが現役のままお亡くなりになられた会社さんでした。
実は社長さんは会社名義の家に社宅として住まわれていたのです。
社長さんが亡くなられた後も、ご家族はその家に住み続けたい。
そこで、死亡退職金としてご自宅である社宅をご遺族にお渡しすることとなるのですが、問題になるのは、その社宅の時価です。
このようにして、退職金を不動産で現物支給というアイデアは、さまざまな場面で活用できると思いますが、その際には時価が問題になりますので、不動産鑑定評価をとっておく必要があることを忘れないようにしてください。
令和3年不動産鑑定士試験 合格発表がありました
まず、合格された方、おめでとうございます。
これまでの道のりはたいへんだったことでしょう。
だけれども、資格者は、互いに何も言わなくても、同じ苦労を乗り越えてきた、という点において、同志としての連帯を感じています。
おそらく、業界に一定数いるベテラン補助者とはどうしても分かり合えない一線のこちら側へ来られた方です。
この一線を越えた者にしか分からない世界を見ることができるようになるのです。
補助者の方々も、好んで補助者をしているわけではないでしょう。
この業界には、資格者より知識の豊富な補助者、経験の豊富な補助者がいます。
ですから、補助者へのリスペクトを忘れてはいけません。
しかし、決定的に違う一点が、試験に合格したかどうか。
この一点が、ささいなようで、根本的な違いなのです。
おそらく、合格された方には意図が分かっていただけるかと思います。
実務修習という試練が待っていますが、資格者として活躍するために必要不可欠な修行です。(経済的な負担がつらいと思いますが)あとひと踏ん張り、がんばってください。
最後に、残念ながら今年は結果が出なかった方、不動産鑑定士試験は、センスが求められる試験ではないと(私見ですが)思います。
やればやっただけ、点数が伸びる。
こんなに分かりやすいシステムはないでしょう。
今はガックリきているかも知れませんが、次の論述式試験まで既に1年を切っています。
独学の方は、学校にいくのもよいかも知れません。
とにかく、正しいやり方で、集中して、必要な時間、勉強すれば合格する試験です。
どのみち、資格者になっても勉強の連続です。
ともにがんばりましょう。
不動産鑑定士業界における選択的夫婦別性
今回は不動産から少し離れた話題ですので、不動産マニアのご期待には添えないと思います。
法務省のホームページには、「選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)」と書かれていますので、正式には選択的夫婦別氏制度なのでしょうけれども、私はこの分野にはあまり詳しくありません。
私の感覚としましては、女性の社会進出の社会進出に伴い、仕事上、旧姓を使いたい、などという理由が一番多いのかな、と思います。
本当に詳しくないので、あまり私見を述べるのもいかがなものかと思いますが、法務省によりますと、ほかにも「アイデンティティの喪失」などという理由が掲げられておりまして、このあたりは本稿にはあまり関係のない部分です。
さて、業界的にはいろいろとお知らせがやってまいりますので、いち早く情報が入手できますが、国土交通省のホームページから「不動産の鑑定評価に関する法律」に入っていっていただきますと、上のほうに「不動産鑑定士における旧姓使用の取扱要領」というのが出てまいります。
詳しくは見ていないのですが、不動産鑑定士は、来月から、不動産鑑定士の監督官庁であります国土交通省に申請をすれば、旧姓で仕事ができるということらしいです。
わたしのイメージで申し訳ありませんが、そして言葉の選択がやや偏っていると言われるかも知れませんが、旧姓の使用を望む多くの女性は、仕事上の都合という理由が一番大きいのではないか、と思うのです。
であるならば、不動産鑑定士業界に限らず、各業界で旧姓の使用を認めるような運用を行えば、法改正を行うまでもなく、多くの方のご不便は解消すると思うのですが、皆様はいかがお考えでしょうか。
評価事例 株価の評価にあたって不動産鑑定評価を行う場合
相続税評価にあたっても、株価の評価をすることがあるかと思います。
この場合、同族株主かどうか、大会社かどうか、などという判定に基づき、評価方法が定められておりまして、
〇純資産価額方式
〇類似業種比準方式
〇配当還元方式
のいずれを使うのか、判断する余地はありません。
ちなみに、この評価方式は、不動産を評価するときの3方式にも対応しておりまして、
〇費用アプローチ:純資産価額方式⇔原価方式
〇市場アプローチ:類似業種比準方式⇔比準方式
〇収益アプローチ:配当還元方式⇔収益還元方式
と表すことができます。
ところで、相続税評価で株価を評価するときに、判断が介入する余地はありませんが、ケンカ別れした共同経営者や、その相続人からの株の買取請求であったり、あるいは円満なM&Aにあたっての株の譲渡価格の算定であったり、任意に株価を評価する場合には、どの方式で評価した株価を重視するか等、判断の余地があります。
そのなかで、純資産価額方式を採用するならば、不動産の価格に、まず簿価を入れて計算すると思いますが、たとえば土地の簿価は取得価額ですから、時間がたてば、簿価と時価が乖離しがちです。
このような場合に、われわれ不動産鑑定士が鑑定評価をさせていただくケースが多くあります。
株価の評価の中の、純資産価額方式の中の、土地の時価を求めるだけですので、株価の評価全般の中では、ほんの一部品に過ぎないのですが、資産に占める割合の重要性が高いケースが多いですので、株価の評価をされている公認会計士さん、税理士さんなどの先生方には、ここはキッチリ鑑定評価をされることを、お勧めします。
評価事例 空き家対策に不動産鑑定評価
以前、担当させていただいた評価事例をご紹介します。
役所のみなさんを悩ませる空き家問題。
草ボーボー、倒壊寸前の空き家は、一義的には所有者さんの問題です。
しかし、苦情は役所に寄せられます。
ご対応にあたっておられる職員の方は、本当にお気の毒です。
現在、空き家対策として役所が対応する場合、司法書士さんなどが活躍されているようです。
空き家対策はタイムリーな話題ですし、制度もどんどん変わっていきますので、これからどうなるかは分かりませんが、この空き家対策に不動産鑑定士さんを引っ張り出してくださった剛腕の職員さんがおられました。
スキーム自体はおそらくその職員さんの企業秘密だと思いますので、ここでは書けませんが、不動産鑑定評価を活用してくださる方の発想力、応用力には、いつも驚かされます。
地主さんの建てる賃貸マンションについて
不動産投資と言えば、まず思いつくのは賃貸マンションでしょうか。
賃貸アパートでもよいのですけど。
世間では「不動産投資、始めてみませんか」とかいう謳い文句があり、庶民も「不労所得」を夢見て、サラリーマン大家などもずいぶん増えているようですが、やはり賃貸マンションを保有している方の多くは地主さんです。
投資家目線で言いますと、融資を受けますので、月々の返済があります。
どんなに魅力的な物件であっても、どんなに家賃収入が多くても、どんなに気前よくお金を貸してくれる銀行さんがあっても、キャッシュフローで月々の返済額が家賃収入を上回ると、投資として成り立ちません。
バブルの頃は、この、いわゆる逆ザヤでも、しばらく赤字が続いたところで、地価がギュンギュン上がって、売り抜けるときにしっかり儲けが出せたわけですが、今となっては、そんな状態は破綻するのが当たり前と思えます。
鑑定評価におきましては、不動産の価格に収益性の側面からアプローチする手法としまして、収益還元法という手法がございます。
代表的な方法は、
〇直接還元法
〇DCF法
の2手法です。
それぞれの手法の詳細は省略しますが、たとえば直接還元法では、単年の収支をもとに、
(家賃収入など)-(賃貸運営に係る経費)=(1年間の純収益)
を求め(一時金の運用益とか資本的支出の積立金とかは省略します)、
(1年間の純収益)÷(還元利回り)
により、元本価格を求めます。これを「収益価格」といいます。
最新の「家主と地主」という雑誌で、この収益価格が積算価格を上回る物件のメリット、デメリット、積算価格を下回る物件のメリット、デメリットなどを整理してくれています。
※詳しくは、こちらを
hudousankanteishi.hatenablog.jp
ところが、地主さんが建てた賃貸マンションは往々にして、この収益価格が積算価格を大きく下回ります。
その理由の多くが、基準容積率をぜんぜん消化していない建物を建てているから。
通常、土地の価格は、どのような建物が建てられるか、を前提として形成されます。
ですが、もともと土地を保有している地主さんは、そんなことは気にしなくていいわけです。
土地から仕込んで賃貸マンションを建てる場合は、土地建物に対して投下した資本の元を取らないといけません。
地主さんは、建物に投下した資本だけ回収できればいいのです。
月々の返済も、建物代に対する借入ですから、土地建物の代金を借り入れた人より少なくて済むわけです。
こうして、収益価格の低い賃貸マンションができ上がるわけですが、だからと言って、この地主さんが投資に失敗しているわけではありません。
地主さんは土地を守ることができる、うまくすれば相続税の節税にもなる、じゅうぶんに目的を果たせます。
現に、大きな借入は負担になるから、容積率をいっぱい使える土地でも、低い建物しか建てないのだと教えてくださった地主さんがおられました。
収益還元法の説明の中で出てきました「利回り」については、また別の機会に書かせていただきたいと思っております。