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貸地の造成費の取扱い

相当にマニアックな論点ですが、実務上よくあるケースについてご紹介させてください。

 

いわゆる造成前宅地(造成すればすぐに宅地として利用可能な土地のことで、宅地地域内の現況農地をイメージしていただければ。たとえば、農地地域の中にバイパス道路が開通して、道路沿いの農地が順次、造成されて、ロードサイド型店舗が建ち並びつつある地域のイメージです)を貸地する場合、宅地造成に要する費用を、借地人が負担する場合が多いかと思います。

 

この場合、借地を貸主に返すときに、造成した土地を耕して、再び農地にして返すことはないでしょう。

一般的に、その経済価値は「宅地>農地」ですから、貸主は費用負担なしに所有する土地の経済価値を上昇させてもらって、返してもらうことになります。

 

では、借主が負担した造成費は、どのように扱われるべきでしょうか。

 

これには、大きく分けて、ふたつの考え方に整理できると考えられます。

 

ひとつめは、税務上の考え方。

借地にあたって借主が負担した造成費は、「権利金」を構成するという考え方です。

この場合、借地にあたって借主が権利金を支払っていますので、借主に借地を返還するにあたっては、借地人が有している借地権を貸主に買い取ってくれるよう求めることができると考えられます。

 

もうひとつは、民事的な考え方。

借地にあたって借主が造成費を負担したことで、貸主の財産の価値が上昇していますので、その分を金銭で支払ってください、ということになるかと思います。

専門的な用語で説明しますと、借主は貸主に対して有益費償還請求権を有することになる、という考え方です。

 

個人的には、後者のほうが鑑定評価の考え方になじむかと思いますが、賃貸借契約が終了した場合のお金の動きは、双方似たようなものになると考えられます。

 

すなわち、

(税務) 借地権(=造成費相当額)の買取請求

(民事) 有益費(=造成費相当額)の償還請求

ですから、貸主は土地を返してもらうにあたって、借主に造成費相当額を支払うのが相当と考えられます。

 

一方、契約の終了にあたって、立退料、移転補償金その他一切の金銭を負担しない旨の特約がある場合には、借地期間中に地代と相殺する形で、貸主が造成費相当額を負担するのが相当と考えられますから、借主が負担した造成費が、地代に影響を与えるものと考えられます。

 

逆に、造成費を負担してもらった分、地代を抑えてます、というのであれば、土地の返還時に借地権の買取請求や有益費の償還請求をするべきではない、ということになると考えられます。

 

土地賃貸借の当事者は、借主が造成費を負担したケースにおいて、どのような地代水準になっているのか、改めて見直されるとよいかも知れません。

 

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